フランスのナンシー市美術館に、日本の能面が収蔵されていると聞いて調査に訪れたのですが、どれも価値の高い素晴らしいもので驚きました。しかし損傷がひどく、より良い状態で末永く保存、展示してもらいたいと思い「能面修復プロジェクト」を立ち上げました。金沢在住の能面師の先生が、フランスの文化財修復師の方に技術指導するという形で、共に作業に取り組んでいます。「能楽」は日本古来の伝統芸能。時代と共に関心は薄れ気味ですが、能面や能装束を所蔵している美術館、博物館はたくさんあります。中でも能楽に特化した専門の美術館は唯一、金沢能楽美術館だけ。つまり世界でもここだけなんです。一方、欧米では、明治維新以降に流出した能面や能装束の多くのコレクションを見ることができます。日本固有の文化財ではありますが、人類が歴史に誇るべき文化遺産として、世界でその価値が認められているのです。私が学芸員として金沢能楽美術館に来る転機が訪れたのは15年前。それまで、子育てをしながら京都国立博物館で任期付研究員として働いていました。家族と離ればなれになりますが、当時、常勤の学芸員のポストはとても少なく苦渋の決断でした。神戸で生まれた私は、幼稚園の頃から母に連れられ、神戸市立博物館によく行きました。西洋画、日本画、工芸品などの展示作品を見つめていると、自分もその世界に吸い込まれるような感覚となり、ワクワクした記憶があります。「学芸員」という名はまだ知りませんでしたが、その時から、そこで働く人になりたいと心に決めていたんです。そしてもう一つ好きだったものが着物。お正月や夏祭りに晴れ着や浴衣を着せてもらっていた私は、日本の伝統衣装に興味を惹かれていきました。大学受験の真只中に阪神淡路大震災が発生し、家は罹災しましたが、大学時代は自分の学びたいものに没頭できることを幸せに感じました。着物への興味は染織美術への探究心に変わり、その分野で有名な教授がいらっしゃれば、違う大学でもお願いして講義を受けさせてもらうこともありました。 能装束として伝わる桃山時代の小袖は自由で、ほとばしるエネルギー幼少から慣れ親しんだピアノを弾くと、気分が豊かになり全身のコリもほぐれて心身ともに整います。出身校:神戸市立鵯台中学校(兵庫県)、兵庫県立兵庫高等学校28神戸女学院大学文学部 総合文化学科 卒業関西学院大学大学院文学研究科 美学美術史学科 博士課程単位取得(47歳) Y.Mさん金沢能楽美術館学芸員幼心を震わせた悠久の美学は幼心を震わせた悠久の美学は時間を越え、海を超えて響き合う時間を越え、海を超えて響き合う金沢能楽美術館 学芸員 (主査)
元のページ ../index.html#30