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若い人の心に響くもの
2020/08/06 06:08


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先月7月、復元整備が行われていた金沢城の鼠多門・鼠多門橋が、2年がかりの工事を終え完成した。

以前、この工事の総棟梁を務められた“現代の名工” 佐田 秀造氏にインタビューをさせていただいたことがある。

佐田棟梁は、羽咋高校の建築科を卒業し大工の見習いとなったが、親方の理不尽さに辟易し、1週間で辞めようと思ったという。しかし、母親の悲しむ顔が浮かび、踏みとどまった。その時、兄弟子から言われたのが、

 

「秀、おくがなら(辞めるなら)今やぞ。もうちょっこ経ったら、おかれんがなるげんぞ!」

 

その時は、何を言っているのか見当がつかなかったが、徐々に腕前が上がって仕事をこなすようになると、佐田さんはその意味に気づき始めた。

 

「だんだん大工の良さがわかってくると、やめられんようになるんやね。例えば、ものが思い通りに ‘ピシッ’と納まると、もう最高やさけぇね。「また次も」って、やめられんようなる (笑)。失敗も何回もするけど、 あの ‘ピタッ’と合ったときの快感いうたら特別。それが職人ちゅうもん。今、49年目やけど、まだ半人前やと思うとる」。

 

就職を控えた大学生と話をすると、「自分が何に向いているのかわからない」「就活本には、『過去をふり返り、自己分析をしてみる』と書いてあるが、具体的に何をしたらいいかわからない」と真面目に悩んでいる。中には、適職診断ツールみたいなものに頼って、余計、迷路に迷い込んでしまう学生も少なくないようだ。

 

そんな学生に言うのは、「過去をふり返るって、今まで何年間生きてきたの?これからの人生のほうがはるかに長くて、知らない世界がたくさんあるのに、学校に通っていた10数年足らずの人生経験をベースに考えてどうするの?」

 

例えるなら、初めて入ったレストランで、食べたことのないたくさんのメニューの中から、選んで失敗しそうにない料理を探すようなもの。小心者の自分は、注文を取りに来た店員を前に焦って、無難な料理や、つい ‘おすすめ’を選んでしまう(笑)。

 

就職活動もそれに似ている。過去に経験したことの延長線で将来を選択するより、未知の世界に踏み出すほうがはるかにラクで、視野を広げ、気づいていない自分の能力を開花させるチャンスがある。とにかく最初の一歩を踏み出せば、もう片方の足も前に出る。そうやって歩を進めていくと、見たことのない景色が広がってきて、その先に行ってみたいと思う目的地があれば、迷わず進んでいけばいい。たとえ、そこに辿り着けなかったとしても、歩んできた道のりは決して無駄にはならない。その間に身につけたことや経験は自分のもの。決して失うことはないし、立っている場所も最初とは違うからだ。

 

では、学生の最初の一歩をこちらに向かせるために、会社は何を訴求していけばいいのか?

 

会社の認知度や規模、待遇など、優位性のある看板メニューがあればいいが、そこを謳える中小企業は多くはない。仕事そのものの魅力(美味しさ)を伝えることが肝要だが、どの求人媒体を見ても、そこがおざなりにされているように感じる。

 

求人サイトによくある先輩談などを読むと、専門用語が多用されて理解が困難だったり、逆に大雑把すぎてイメージがつかなかったり、仕事のルーチン説明だったり、結果、どの会社の記事も似たような内容に終始してしまっているように見受けられる。

 

インタビューをもとに原稿が作られる場合、聞き手が仕事をする人の感動体験に触れ、共感できなければ、その仕事の魅力を読者に伝えることができない。話し手の心の機微を感じ取り、ここだ!というところで深堀する。一瞬でも集中力を切らすと、その人の大切な価値観や、潜んでいたかもしれない興味あるエピソードを逃してしまうことになる。これまで千回以上取材をしてきたが、録音データを聞き直した時、「何でここで話を遮ってしまったのだろう?」「違う切り口で質問したら、話が広がっていたかも・・・」と後悔することがよくある。

 

人が感じたことを文字で表現するのはとても難しい。

 

レストランに入って、隣の客が美味しそうに食べているのを見ると、その料理が気になって、予め決めていた注文を思わず変更してしまったことはないだろうか。

 

情景、匂い、音など、相手が五感で感じたことを読者に感じさせることが出来たら成功だ。

 

 

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「ものが思い通りに‘ピシッ’と納まると、もう最高やさけぇね!」

 

佐田さんは、この快感から逃れられず、大工の道を49年間歩いてきた。

 

すごくシンプルではあるが、「カッケー(カッコいい)!自分もヤリてー!」と、ピンとくる若者は今の時代にも必ずいる。

 

「お城の工事は自分たち(大工)だけの仕事じゃない。左官やさんとの兼ね合いや、板金やさんの仕事も考慮した寸法のとり方など、ものすごく勉強ができる。初めて現場に入った若い職人は、“楽しくておられん” 言うとる」と話していた佐田さんの満面の笑顔が忘れられない。