齢(よわい)80歳を過ぎて、経営の最前線に立たれていらっしゃる、ある企業の会長にお会いした。
昭和2年生まれ。18歳で終戦を迎えられた。志願兵だったという。
当時、「“死ぬこと”それが国を守ることである」という論理が、暗黙の了解であった。異議はあっても、誰も口には出さなかった。
しかし、その当時の日本は、敗戦色も濃い、疲労困憊状態。海軍には、すでに乗り込む特攻機も人間魚雷もなく、死所さえ得られなかった。
そして、敗戦。
あれから63年が経とうとしている。
日本は見事、経済的には立ち上がったが、精神的、政治的な影響は今なお続いている。
特に「教育」と「家族制度(家長制度)」。 この二つは最も負の影響が大きい。
かつて、素読させられた論語から、人生における大切なことをたくさん学んだという。
長い歴史によって培われ、日本人に合った家長制度。これが崩壊させられ、核家族化が定着してしまったことで、介護問題などや年金問題が深刻化している。
「『“死ぬこと”それが国を守ることである』今の時代でも、戦時中と同じことを言われるんですよ。
そうすれば、年金払わなくてすむから、若い人が助かるってね(笑)。」
近代日本の光と影。
大義と誤り。
価値観の変化。
歴史や外交を問う評論化はたくさんいるが、
実際、歴史の中に身をおいて、時代を検証してきた人は極めて少なくなってしまった。
言葉に表せないこともたくさんある。
ましてや、活字にできないことも数知れない。
日本が歩いてきた道程を知っている人にとって、今向かっている方向はどう映っているのか。
「さくらノート。これは、日本人が失いつつある大切なことを、今の子供たちに伝えるのにとてもよいと思うね。」
そう言って、立ち上がった会長は矍鑠(かくしゃく)としていて、時代のタスキを繋いでいく使命感のようなものを受け取った気がした。
時代のタスキ
2008/07/01 08:07