また、悲劇がおきた。
今回の事故の調査委員会の発表や専門家の話から類推すると、
見えてきたことがある。
当時の技術や材料の問題とする見方もあるが、おおよそこれは
人災だったということだ。
コンクリート建造物の施工は非常に難しい。厳しい品質管理
のもとで造られる鉄骨などと違って、現場でセメントと砂利、水を
混和させてつくるコンクリートは、施工する作業者によって、強度
も耐久性も左右される。
配合のバランスや手順、乾燥時間など、現場作業員の経験
や教育、モラルによっても違いが出るのは否めない。また、工程が
決まっているため、遅れが生じた場合は、人工(にんく)を増やして
‘トッカン’でやらざるを得ない。そうなると、職人の質にもバラつきが
出るため、チェック機能が働かない場合は、そこが落とし穴になる
可能性がある。
実際、今回のケースも、アンカーボルトを天井部に埋め込むとき、
接着剤を入れる決まりになっているのだが、接着剤を入れる際、
ドリルで空けた下穴を掃除し、完全に粉や埃を除去してからで
ないと接着力が落ち、簡単に抜けてしまうのだ。
施工する場面を想像した時、作業者の隣に審判がついて
一回一回確認していることなどありえないし、すべては作業者の
モラルにゆだねられるわけだ。
ましてや、点検も完成時からほとんどされていなかったという。
背筋がゾッとしてしまう話である。
この手の話は、取材の雑談でも度々聞く話であり、私自身も
かつて建設業の現場で働いた経験があるので、はずれてはいな
いだろう。
建設工事はシロウトには見えない部分が多い。
ハンコが押された設計書に指定された材料でも、元請け建設会
社→下受け施工会社→孫請け工務店と下りてくるにつれて、
なぜか材料がガラリと変わってしまうことがある。
仕様書には「同等品」と書かれているので、必ずしも指定されて
いるわけではない。予算が少なく、材料込みで工事を請け負って
いる業者は、少しでも利益を取りたいから、そこそこ同等で、安い
特価品を使いたがるのだ。
「似たようなので、何か安いものないか?」そう聞かれれば、
応えるのも営業マンの性。新人の営業マンの場合、知識も浅い
ので、後先まで考えず、品質を満たしていない商品を納めてしま
うこともある。
突如、命を奪われた方々とご家族の心情を思えば、やり場の
ない怒りに苦しんでおられるだろう。
また当時、工事に携わった人たちは、どんな思いでテレビの場面
を見ていただろう。
少し前に「コンクリートから人へ」というフレーズがあったが、そのツケ
がまわって、人に危害を及ぼす状況を呈している。
あらためて考えることは、どんな職業でも、プロとして誇りある仕事
をすることの大切さ。それが連鎖していけば、きっと事故は減るはず
である。
笹山トンネル崩落事故に思う
2012/12/05 11:12